病院や施設の新規立ち上げ、または定期的な見直しの際に避けて通れないのが、「常食(普通食)」の給与栄養目標量の策定です。
一度決めてしまうと、システム設定や現場の運用、さらにはコストにも影響するため、変更するのは容易ではありません。また、保健所の監査でも「算定根拠」を厳しく確認されるポイントです。
今回は、私見も含みますが、実務で使える**「根拠を持った目標量の決め方」**を5つのステップで解説します。
1. 給与栄養目標量の策定手順
基本となる手順は以下の通りです。
- 荷重平均栄養所要量を算出する
- 常食を「何段階」にするか検討する
- PFCバランス(タンパク質・脂質・炭水化物)を決定する
- ビタミン・ミネラル・食物繊維などの微量栄養素を設定する
- 運用のルール(常食A・Bの使い分け等)を決める
2. 荷重平均栄養所要量を算出する
まずは、自分の施設の「平均的な必要量」を知るために、**「普通食(常食)患者年齢構成表及び荷重平均栄養所要量表」**を作成します。
ステップ1:喫食者の分布を把握
性別・年齢別の喫食者数を入力し、集団としての必要量を算出します。
- 毎月15日など、特定日の平均的な喫食者数で算出するのが一般的です。
- 「日本人の食事摂取基準(最新版)」を参考に、活動レベル(病院ならレベルⅠなど)を当てはめます。
ステップ2:数字の調整
算出された数値をもとに、キリの良い数字(100kcal単位や5g単位)で丸めます。
※ただし、回復期リハビリテーション病棟など、筋肉量増量を目的とする場合は、PFC比だけでなく「1.2g/kgBW」など、対象者の実情に合わせた加算も検討してください。
3. 常食を「何段階」にするか検討する
集団の年齢構成や体格に幅がある場合、一段階(1種類)の常食では対応できません。
- パターンA(例1):集団が分かれている場合「若年層・男性」と「高齢者・女性」のように集団が二極化しているなら、**常食A(例:1800kcal)と常食B(例:1400kcal)**の2段階設定が理想的です。
- パターンB(例2):集団の幅が狭い場合目標量の差が小さい場合は、常食は1種類とし、主食(ご飯)の量を変えることで調整可能です。


4. エネルギー産生栄養素(PFC)の算出例
例として、**「1800kcal / タンパク質65g」**と決めた場合の計算プロセスを紹介します。
① 脂質(F)の目標量を決める
食事摂取基準(2020/2025年版)の目標量(20~30%)を参考にします。仮に25%とする場合:
・計算式: 1800kcal × 0.25(25%) ÷ 9kcal = 50g
② 炭水化物(C)を算出する
全体のエネルギーから、タンパク質(P)と脂質(F)を引いた残りが炭水化物になります。
・タンパク質の熱量: 65g × 4kcal = 260kcal
・脂質の熱量: 50g × 9kcal = 450kcal
・炭水化物の目標量: (1800kcal - 260kcal - 450kcal) ÷ 4kcal = 272.5g(→約270g)
これで、P: 65g / F: 50g / C: 270g という根拠ある基準が完成します。
5. ビタミン・ミネラル・食物繊維の基準設定
エネルギーだけでなく、微量栄養素もしっかり設定しましょう。
- 対象者の分布を確認: 荷重平均で算出した際の主な年齢層を確認します。
- 食事摂取基準の参照: 「日本人の食事摂取基準」の「推定平均必要量」または「推奨量(目安量)」を確認します。
- 付加量の検討: 褥瘡(じょくそう)予防のための亜鉛やビタミンC、骨粗鬆症対策のカルシウムなど、施設の特性に合わせて基準を検討します。
これらも一覧表にまとめ、監査時に「なぜこの数値にしたか」を説明できるようにしておきましょう。

6. 運用方法をルール化する
目標量が決まったら、現場でどう使い分けるかの「運用ルール」をマニュアル化します。
- 例: 男性は一律「常食A」、女性・高齢者は「常食B」から開始。
- 注意: これらはあくまで「初期設定」です。実際の栄養アセスメントに基づき、個別に変更・調整を行う体制を整えておくことが重要です。
最後に:一人で悩まず「根拠」を共有しよう
給与栄養目標量の策定は、栄養科だけでなく、多職種や委託会社とも関わる大きな決断です。
「なぜこの数字にしたのか」という根拠を明確にしておくことで、監査対策はもちろん、スタッフ間での納得感も高まります。まずは自施設の年齢構成表を作るところから始めてみましょう!
今後も、新人管理栄養士や学生の皆さんに役立つ実務情報を発信していきます。
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