病院、施設などの集団給食施設では、大量調理施設マニュアルやHACCPなどを参考に、各施設にて衛生管理マニュアルを作成し、食中毒予防に努めていると思います。
その中で、特に食材の検収時の温度や加熱の温度、保管の温度など、「温度管理」には細心の注意を払っていることでしょう。
「中心温度75℃1分以上と同等の加熱」が必要だから、ローストビーフやサラダチキンなどの低温調理は提供できないの?と疑問に思われている方も多いと思います。
そこで今回は、「75℃1分以上と同等の加熱」について説明していきたいと思います。
ではいきましょう。
75℃1分以上と同等の加熱とは
加熱の基準は?
病院・施設等の集団給食での食中毒予防では、適切な食品加熱が特に重要です。細菌は「栄養」「水分」「温度」の条件下で時間が経過すると増殖します。10~60℃が細菌が増殖しやすい温度帯と言われていますので、この温度帯を速やかに通過することが重要です。
厚生労働省「大量調理施設マニュアル」では下記の通り、食中毒防止のための加熱条件として、
「中心温度75℃1分以上(ノロウイルス汚染のおそれのある食品の場合は85~90℃で90秒以上)又はこれと同等以上まで加熱されていることを確認する」となっています。
2.加熱調理食品の加熱温度管理
加熱調理食品は、別添2に従い、中心部温度計を用いるなどにより、中心部が75℃で1分間以上(二枚貝等ノロウイルス汚染のおそれのある食品の場合は85~90℃で90秒間以上)又はこれと同等以上まで加熱されていることを確認するとともに、温度と時間の記録を行うこと。
・「大量調理施設衛生管理マニュアル」の改正について(◆平成29年06月16日生食発第616001号) (mhlw.go.jp)
75℃以上でないといけない?
では、中心温度75℃以上で加熱しないといけないのでしょうか。
食肉の加熱条件に関するQ&Aでは下記の通り、「70℃、3 分」、「69℃、4 分」、「68℃、5 分」、「67℃、8 分」、「66℃、11 分」、「65℃、15 分」での加熱も、「75℃、1分」と同等の加熱条件であると回答を得ています。
食肉の加熱条件に関するQ&A
Microsoft Word – 食肉の加熱条件に関するQ&A (mhlw.go.jp)
Q.食肉による食中毒防止のための加熱条件として、中心部を 75℃で 1 分間加
熱することが必要とされていますが、これと同等の加熱の条件はどのような
ものがありますか?
A.「75℃、1 分」と同等な加熱殺菌の条件として、「70℃、3 分」、「69℃、4 分」、
「68℃、5 分」、「67℃、8 分」、「66℃、11 分」、「65℃、15 分」が妥当と考えら
れます。
また、調理の現場においては、中心温度計の適切な使用により、食肉の中心部の
温度が目標とする温度を下回らないことを確認し、確実な加熱殺菌が行われる
ようにする必要があります。
食中毒細菌は65℃以上では増殖できない?
食中毒細菌においては、下記表のとおり、65℃以上で増殖条件を満たす細菌は一般的ではありません。
ただし、芽胞を形成して100℃以上でも生き残るものや耐熱性の毒素を産生するものも存在します。ここで重要なのは、加熱温度だけでなく加熱処理前後の食品の取り扱いです。加熱以前に食中毒細菌が増殖していれば、当然食中毒リスクが高くなりますし、加熱後の保管温度が適切でない場合もリスクが上がります。これは、65℃などの低温加熱だけでなく、75℃以上での加熱時も同様です。
s0331-10a-011.pdf (mhlw.go.jp)
給食施設での低温調理の方法
一般的にローストビーフなどを低温調理で作る場合、55~62℃の温度帯で、長時間加熱する場合があると思いますが、この温度帯での加熱はいくら加熱時間が長いとはいえ、基準を満たしていません。食中毒予防のためには最低65℃15分以上で加熱する必要があります。
調理方法
調理方法には下記の3通りが考えられます。
- 湯せんでの真空低温調理
- スチームコンベクションオーブンでの真空低温調理
- スチームコンベクションオーブンでの低温調理
湯せんでの真空低温調理
直接温度管理された湯につけるので、湯温と食材の中心温度が同一となりやすいです。
また目標の温度に早く到達しやすい傾向にあります。
スチームコンベクションオーブンでの真空低温調理
ラミネートあるいはジップロックに入れた食材を低温スチームで加熱することになります。
なかなか加熱設定温度まで中心温度が上がりませんので、高めの温度設定で加熱を行います。
スチームコンベクションオーブンでの低温調理
たとえばローストビーフの場合、設定温度220℃程で表面を加熱し、その後100℃まで下げて、目標の中心温度に達するまで加熱します。この際、中心温度計を刺したまま加熱することで、中心温度を確認しながら加熱をすることができます。中心温度が目標温度に達したら、設定温度を目標温度まで下げて、既定の時間維持します。
最近の高機能スチームコンベクションオーブンはこの一連の流れがプログラミングされているものもありますので、簡単に低温調理ができます。
温度の確認方法
中心温度65℃15分以上で基準を満たしますが、これは設定温度65℃で15分加熱すればよいという意味ではありません。
また、余裕をもって65℃60分加熱したからよいというわけでもありません。
あくまで中心温度が既定の基準を満たしていることが重要です。
そのためには「中心温度計」を用いて、中心温度を経時的に測定する必要があります。
ムースを使用してラミネートされた食材の中心温度を測定する
では、ラミネートされた食材の中心温度をどのように測ればよいでしょうか。
そこで役に立つのが「ムース」です。下記にリンクを貼っておきますので、ご確認ください。
このムースをラミネートに貼り、そこに消毒をした針型の中心温度計を刺して温度を測定します。
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ジップロック内の食材の中心温度を測定する
手間はかかりますが、ジップロックであれば開封できますので、中心温度計を直接食材の中心に刺すことができます。この場合にも、中心温度計はしっかり消毒をしてください。
ジップロックを開封しての温度確認では、一度加熱機器から出すことになりますので、温度が下がらないように速やかに測定をする必要があります。
また、いつ既定の温度に達したかわかりませんので、何度も温度チェックするか、十分な時間が経過してから温度を確認するか となりますので、温度チェックが非常に難しいです。
包装されていない食材の中心温度を測定する
あらかじめ消毒した中心温度計を食材に刺し、スチームコンベクションオーブンで加熱を開始し、中心温度を経時的に管理をします。
もっとも簡単な方法ですが、長時間の加熱となりますので、食材の乾燥などに配慮した温度・スチーム設定、表面に油を塗るなどの工夫が必要になります。
さいごに
低温調理法は、従来の75℃1分以上の加熱方法と比較し、食材を柔らかく、ジューシーに仕上げることができますが、温度管理に少々手間がかかりますし、衛生管理についてもより一層気を配る必要があります。
スチームコンベクションオーブンのメーカーなどが主催する研修会などもありますので、積極的に情報を集めてしっかりと技術を習得しましょう。
病院や施設で低温調理の料理を提供する場合、保健所の監査などで聞かれる可能性があります。しっかりとした知識を習得した上で、安心安全でおいしい食事を作っていきましょう。
この記事は大量調理施設マニュアルなどを参考としていますが、食中毒予防や監査対策などを保証するものではありません。実施に際しては、各自の責任で実施下さるようお願いいたします。当サイトでは一切の責任を負いかねます。